活動報告

Activity

カテゴリ「専門人材の育成」

2025.09.11

抄読会レポート:感染症時の免疫調節薬、止めるべきか?続けるべきか?

感染症学講座では、専門人材の育成と学生教育を目的として、感染症分野の注目論文を取り上げる抄読会を定期的に開催しています。今回はその一環として、以下の論文を取り上げました。

 

Continuation versus temporary interruption of immunomodulatory agents during infections in patients with inflammatory rheumatic diseases: a randomized controlled trial. 

 

Clin Infect Dis. 2025 Aug 12:ciaf442. doi: 10.1093/cid/ciaf442. Online ahead of print.

 

感染症が発生した際、免疫抑制薬や免疫調節薬を一時的に中断すべきかどうかは、臨床現場でも判断が分かれる課題です。従来は「感染症が起きたら免疫抑制薬/調節薬は休薬」という考え方が一般的でしたが、近年では原疾患の活動性や薬剤の種類を踏まえた個別判断が求められています。

今回取り上げた論文では、炎症性リウマチ性疾患の患者に感染症が発生した際、使用している免疫調節薬を継続する群と一時中断する群の治療成績が比較されました。その結果、感染症の重症化率に有意差は認めませんでした。一方で、原疾患の疾患活動性についても両群で有意差は認めませんでした。

この研究は、感染症発生時にも免疫調節薬を一律に休薬しなくてもよいことを示唆しています。最終的には、感染症の重症度・原疾患の活動性・薬剤の種類などを総合的に判断することが求められていくと思います。

 

 本記事は、感染症学講座における抄読会の活動報告を目的として作成されたものであり、特定の疾患に対する診断・治療を推奨または否定するものではありません。内容の正確性には十分配慮しておりますが、詳細については必ず元の論文をご確認ください。なお、実際の医療現場での適応に関しては、医療専門職の判断に基づいてご対応ください。

2025.09.09

抄読会レポート:好中球減少時のPseudomonas aeruginosa(緑膿菌)菌血症に対する抗菌薬短期投与の有効性

感染症学講座では、専門人材の育成と学生教育を目的として、感染症分野の注目論文を取り上げる抄読会を定期的に開催しています。今回はその一環として、以下の論文を取り上げました。

 

Is Short-Course Antibiotic Therapy Suitable for Pseudomonas aeruginosa Bloodstream Infections in Onco-hematology Patients With Febrile Neutropenia? Results of a Multi-institutional Analysis

 

Clin Infect Dis. 2024;78(3):518-525.

 

近年、抗菌薬の過剰使用による耐性菌の増加や副作用リスクを背景に、細菌感染症に対して治療期間を「必要最小限」にするという方針が国際的に受け入れられています。例えば免疫機能に問題がない患者に生じた、特に合併症のないグラム陰性桿菌菌血症に対しては7日間程度の短期治療が標準化されつつあります。

今回取り上げた論文では、好中球減少を伴う血液悪性腫瘍患者434名を対象に、P. aeruginosa(緑膿菌)菌血症に対する短期(7–11日)vs. 長期(12–21日)治療の臨床成績が比較されています。その結果、30日以内の死亡率や再発率に有意差はなく、短期治療群の方が平均3.3日早く退院できたと報告されています。ただし、再発や死亡に影響する因子としては、多剤耐性緑膿菌感染、肛門周囲炎、再発性/難治性血液悪性腫瘍の存在、好中球減少状態の遷延が挙げられており、抗菌薬の投与期間そのものよりも患者背景の方が重要である可能性が示唆されました。

感染症の治療期間を短縮する、という国際的な方向性がある中で、今回の論文は高度の免疫抑制患者においても短期治療が必ずしも不利ではない、ということを示す重要な知見だと思います。一方で今回の研究はあくまで観察研究であり、ランダム化比較試験による検証が今後の課題になると思います。それでも抗菌薬適正使用の観点から、治療選択の柔軟性を高める知見といえるでしょう。

 

 

 本記事は、感染症学講座における抄読会の活動報告を目的として作成されたものであり、特定の疾患に対する診断・治療を推奨または否定するものではありません。内容の正確性には十分配慮しておりますが、詳細については必ず元の論文をご確認ください。なお、実際の医療現場での適応に関しては、医療専門職の判断に基づいてご対応ください。

2025.08.21

抄読会レポート:小児急性虫垂炎に対する抗菌薬治療の非劣性試験を読む

感染症学講座では、専門人材の育成と学生教育を目的として、感染症分野の注目論文を取り上げる抄読会を定期的に開催しています。今回の抄読会では、以下の論文を取り上げました。

 

 Appendicectomy versus antibiotics for acute uncomplicated appendicitis in children: an open-label, international, multicentre, randomised, non-inferiority trial

Lancet. 2025;405(10474):233-240.

 

近年、急性単純性虫垂炎に対する抗菌薬治療が注目を集めています。従来は「虫垂炎といえば手術」というイメージがありましたが、特に成人においては、抗菌薬による非手術的管理の有用性に関する研究が多く報告されています。

 今回取り上げたこの論文では、小児の虫垂炎患者を対象として、抗菌薬治療と虫垂切除術を比較する非劣性試験の結果を報告しています。その結果、抗菌薬治療群は1年以内に虫垂切除術を必要とする割合が34%と高く、虫垂切除術群おける治療失敗率(1年以内に全身麻酔を必要とする合併症が生じるか、切除された虫垂に虫垂炎所見がなかった割合)の7%と比較して、事前に設定された非劣性の基準を満たしませんでした(非劣性は統計学的に証明されませんでした)。

今後も小児の虫垂炎治療の主体は手術ということになりそうですが、一方で抗菌薬群のほうが日常生活に戻るまでの日数が短いことなども示されています。患児(とその保護者)がどのような要素を重視するかに応じて、症例ごとに治療方針を検討する際の重要な判断材料となると思います。今後の研究によって、再発リスクや治療反応性に関する予測因子が明らかになり、より適切な治療選択ができるようになるといいですね。

 

 本記事は、感染症学講座における抄読会の活動報告を目的として作成されたものであり、特定の疾患に対する診断・治療を推奨または否定するものではありません。内容の正確性には十分配慮しておりますが、詳細については必ず元の論文をご確認ください。なお、実際の医療現場での適応に関しては、医療専門職の判断に基づいてご対応ください。

2025.08.19

抄読会レポート:腟用プロバイオティクスによる尿路感染症の再発予防に関する最新研究

感染症学講座では、専門人材の育成と学生教育を目的として、感染症分野の注目論文を取り上げる抄読会を定期的に開催しています。今回はその一環として、以下の論文を取り上げました。

 

 Effectiveness of Prophylactic Oral and/or Vaginal Probiotic Supplementation in the Prevention of Recurrent Urinary Tract Infections: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial

 Clin Infect Dis. 2024;78(5):1154-1161

 

 繰り返し尿路感染症を発症する患者さんは少なからず存在します。その対策として長期的に抗菌薬が投与されることがありますが、これは薬剤耐性菌の出現リスクを高める可能性があります。その中で近年では抗菌薬に依存しない再発予防戦略が注目されています。

 今回取り上げたこの論文では、経口または腟用プロバイオティクスが尿路感染症の再発予防に有効かどうかが検討されました。結果として、腟用のプロバイオティクスが尿路感染症の再発予防に有望であることが示されました。

 現時点では日本では(そして諸外国でも)腟用のプロバイオティクスは流通しておらず、あくまで研究用の位置づけのようです。しかし今回の研究は、抗菌薬以外の方法で尿路感染症の再発を抑制する可能性を示したという点で非常に重要です。今後さらに研究が進めば、腟用のプロバイオティクスの処方が選択肢の一つとなる日が来るかもしれません。

 

  本記事は、感染症学講座における抄読会の活動報告を目的として作成されたものであり、特定の疾患に対する診断・治療を推奨または否定するものではありません。内容の正確性には十分配慮しておりますが、詳細については必ず元の論文をご確認ください。なお、実際の医療現場での適応に関しては、医療専門職の判断に基づいてご対応ください。

2024.04.01

健康科学大学看護学部で講義を行いました。

県内における感染症専門人材の養成を推進する為、県内看護学生に対する講義を実施しています。今年度は、健康科学大学看護学部看護学科2年生を対象とした「疾病治療論Ⅶ」の講義において、感染症・感染制御学の年4回の授業の担当する予定です。

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