活動報告

Activity

2025.10.14

抄読会レポート:ペルメトリン処理ベビーラップによるマラリア予防

感染症学講座では、専門人材の育成と学生教育を目的として、感染症分野の注目論文を取り上げる抄読会を定期的に開催しています。今回はその一環として、以下の論文を取り上げました。

 

Permethrin-Treated Baby Wraps for the Prevention of Malaria.

N Engl J Med. 2025;393(14):1399-1408.

 

サハラ以南アフリカでは、マラリアは依然として乳幼児の主要な死因の一つです。蚊帳や屋内残留噴霧(殺虫剤を壁や天井に散布する方法)などの対策が広く行われていますが、現状をさらに改善させるための新たな補完的手段が求められています。本研究では、乳児をおんぶする際に使用する布に注目し、その布をペルメトリン(ピレスロイド系殺虫成分の一つ)で処理して日常的に使用することで、マラリア感染を予防できるかを検討しました。その結果、マラリア感染率が有意に低下したことが示され、安全性についても大きな懸念は認められませんでした。抄読会では、マラリア対策の多層的アプローチの一環として注目に値するとともに、現地の文化に合わせた、日常生活に組み込める介入を検討した着眼点について議論されました。どんなに有効な感染対策も、それが実践されなければ効果を発揮しません。普段の生活や行動の延長線上にある感染対策の有効性を再認識する機会になりました。

 

 

 本記事は、感染症学講座における抄読会の活動報告を目的として作成されたものであり、特定の疾患に対する診断・治療を推奨または否定するものではありません。内容の正確性には十分配慮しておりますが、詳細については必ず元の論文をご確認ください。なお、実際の医療現場での適応に関しては、医療専門職の判断に基づいてご対応ください。

 

2025.10.12

抄読会レポート:REVISIT試験にみる新規抗菌薬アズトレオナム・アビバクタム

感染症学講座では、専門人材の育成と学生教育を目的として、感染症分野の注目論文を取り上げる抄読会を定期的に開催しています。今回はその一環として、以下の論文を取り上げました。

 

Aztreonam-avibactam versus meropenem for the treatment of serious infections caused by Gram-negative bacteria (REVISIT): a descriptive, multinational, open-label, phase 3, randomised trial

 

Lancet Infect Dis. 2025;25(2):218-230

 

薬剤耐性菌の増加や拡大は世界中で大きな懸念となっています。その中で近年、新たなベータラクタマーゼ阻害薬を配合した抗菌薬の開発が進んでおり、アズトレオナム・アビバクタムは、メタロベータラクタマーゼを産生する腸内細菌目細菌(カルバペネムにも耐性)に対する治療選択肢として注目されています。この研究は、複雑性腹腔内感染症や院内肺炎・人工呼吸器関連肺炎を対象に、アズトレオナム・アビバクタムとメロペネムを比較したものです。その臨床的治癒率は、アズトレオナム・アビバクタム群68.4%、メロペネム群65.7%と同程度で、安全性についても新たな懸念はありませんでした。抄読会では、原因菌に占める耐性菌の割合が少なかったことについて議論されました。また、アズトレオナム・アビバクタムは(20251012日時点では)日本で未承認・未発売であることについても共有され、将来的に必要となる場面を想定し、その役割について検討されました。

 

 本記事は、感染症学講座における抄読会の活動報告を目的として作成されたものであり、特定の疾患に対する診断・治療を推奨または否定するものではありません。内容の正確性には十分配慮しておりますが、詳細については必ず元の論文をご確認ください。なお、実際の医療現場での適応に関しては、医療専門職の判断に基づいてご対応ください。

 

2025.10.02

抄読会レポート:抗菌薬併用下のCDI治療におけるフィダキソマイシンとバンコマイシンの比較

感染症学講座では、専門人材の育成と学生教育を目的として、感染症分野の注目論文を取り上げる抄読会を定期的に開催しています。今回はその一環として、以下の論文を取り上げました。

 

An Open-Label, Randomized Trial Comparing Fidaxomicin With Oral Vancomycin for the Treatment of Clostridioides difficile Infection in Hospitalized Patients Receiving Concomitant Antibiotics for Concurrent Infections

 

Clin Infect Dis. 2024;78(2):277-282.

 

Clostridioides difficile 感染症(以下、CDI)の治療薬として、メトロニダゾール、経口バンコマイシンのほかに、フィダキソマイシンがあります。日本とアメリカでCDIの主要な菌株が異なっていることなどから、アメリカでは経口バンコマイシンかフィダキソマイシンが使用されており、先行研究でその効果の優劣が検討されています。本研究は、他の感染症治療のために抗菌薬を併用している入院患者に発生したCDIに対して、フィダキソマイシンと経口バンコマイシンを比較した試験です。その結果、フィダキソマイシン群は治療終了時の成功率で良好な傾向を示したものの有意差はなく、再発率や安全性も同程度でした。この結果を踏まえて抄読会では、各薬剤の費用も考慮して治療薬を選択することも必要性についても議論されました。

 

 

 本記事は、感染症学講座における抄読会の活動報告を目的として作成されたものであり、特定の疾患に対する診断・治療を推奨または否定するものではありません。内容の正確性には十分配慮しておりますが、詳細については必ず元の論文をご確認ください。なお、実際の医療現場での適応に関しては、医療専門職の判断に基づいてご対応ください。

 

 

2025.09.30

抄読会レポート:ペニシリン感受性Iのレンサ球菌性IEの抗菌薬併用療法

感染症学講座では、専門人材の育成と学生教育を目的として、感染症分野の注目論文を取り上げる抄読会を定期的に開催しています。今回はその一環として、以下の論文を取り上げました。

 

Impact of Intermediate Susceptibility to Penicillin on Antimicrobial Treatment and Outcomes of Endocarditis Caused by Viridans and Gallolyticus Group Streptococci. 

 

Clin Infect Dis. 2023;77(9):1273-1281. 

 

ペニシリンの感受性がI (intermediate)viridans group および gallolyticus group のレンサ球菌による感染性心内膜炎では、従来βラクタム系抗菌薬にアミノグリコシドを併用する治療が推奨されてきました。しかし、併用療法の有効性を裏付ける明確なデータは乏しく、腎毒性などの副作用リスクが問題視されることから、近年はセフトリアキソン単剤が選択されることも増えています。今回の研究は、このような状況における抗菌薬選択(併用か単剤か)と治療成績の関連を後ろ向きに検討したものです。その結果、単剤治療でも院内死亡率は悪化しなかったことが示されました。有害事象のリスクを考慮すると、今後は単剤治療を選択する場面がますます増えていきそうです。

 

 

 本記事は、感染症学講座における抄読会の活動報告を目的として作成されたものであり、特定の疾患に対する診断・治療を推奨または否定するものではありません。内容の正確性には十分配慮しておりますが、詳細については必ず元の論文をご確認ください。なお、実際の医療現場での適応に関しては、医療専門職の判断に基づいてご対応ください。

 

2025.09.11

抄読会レポート:感染症時の免疫調節薬、止めるべきか?続けるべきか?

感染症学講座では、専門人材の育成と学生教育を目的として、感染症分野の注目論文を取り上げる抄読会を定期的に開催しています。今回はその一環として、以下の論文を取り上げました。

 

Continuation versus temporary interruption of immunomodulatory agents during infections in patients with inflammatory rheumatic diseases: a randomized controlled trial. 

 

Clin Infect Dis. 2025 Aug 12:ciaf442. doi: 10.1093/cid/ciaf442. Online ahead of print.

 

感染症が発生した際、免疫抑制薬や免疫調節薬を一時的に中断すべきかどうかは、臨床現場でも判断が分かれる課題です。従来は「感染症が起きたら免疫抑制薬/調節薬は休薬」という考え方が一般的でしたが、近年では原疾患の活動性や薬剤の種類を踏まえた個別判断が求められています。

今回取り上げた論文では、炎症性リウマチ性疾患の患者に感染症が発生した際、使用している免疫調節薬を継続する群と一時中断する群の治療成績が比較されました。その結果、感染症の重症化率に有意差は認めませんでした。一方で、原疾患の疾患活動性についても両群で有意差は認めませんでした。

この研究は、感染症発生時にも免疫調節薬を一律に休薬しなくてもよいことを示唆しています。最終的には、感染症の重症度・原疾患の活動性・薬剤の種類などを総合的に判断することが求められていくと思います。

 

 本記事は、感染症学講座における抄読会の活動報告を目的として作成されたものであり、特定の疾患に対する診断・治療を推奨または否定するものではありません。内容の正確性には十分配慮しておりますが、詳細については必ず元の論文をご確認ください。なお、実際の医療現場での適応に関しては、医療専門職の判断に基づいてご対応ください。

2025.09.09

抄読会レポート:好中球減少時のPseudomonas aeruginosa(緑膿菌)菌血症に対する抗菌薬短期投与の有効性

感染症学講座では、専門人材の育成と学生教育を目的として、感染症分野の注目論文を取り上げる抄読会を定期的に開催しています。今回はその一環として、以下の論文を取り上げました。

 

Is Short-Course Antibiotic Therapy Suitable for Pseudomonas aeruginosa Bloodstream Infections in Onco-hematology Patients With Febrile Neutropenia? Results of a Multi-institutional Analysis

 

Clin Infect Dis. 2024;78(3):518-525.

 

近年、抗菌薬の過剰使用による耐性菌の増加や副作用リスクを背景に、細菌感染症に対して治療期間を「必要最小限」にするという方針が国際的に受け入れられています。例えば免疫機能に問題がない患者に生じた、特に合併症のないグラム陰性桿菌菌血症に対しては7日間程度の短期治療が標準化されつつあります。

今回取り上げた論文では、好中球減少を伴う血液悪性腫瘍患者434名を対象に、P. aeruginosa(緑膿菌)菌血症に対する短期(7–11日)vs. 長期(12–21日)治療の臨床成績が比較されています。その結果、30日以内の死亡率や再発率に有意差はなく、短期治療群の方が平均3.3日早く退院できたと報告されています。ただし、再発や死亡に影響する因子としては、多剤耐性緑膿菌感染、肛門周囲炎、再発性/難治性血液悪性腫瘍の存在、好中球減少状態の遷延が挙げられており、抗菌薬の投与期間そのものよりも患者背景の方が重要である可能性が示唆されました。

感染症の治療期間を短縮する、という国際的な方向性がある中で、今回の論文は高度の免疫抑制患者においても短期治療が必ずしも不利ではない、ということを示す重要な知見だと思います。一方で今回の研究はあくまで観察研究であり、ランダム化比較試験による検証が今後の課題になると思います。それでも抗菌薬適正使用の観点から、治療選択の柔軟性を高める知見といえるでしょう。

 

 

 本記事は、感染症学講座における抄読会の活動報告を目的として作成されたものであり、特定の疾患に対する診断・治療を推奨または否定するものではありません。内容の正確性には十分配慮しておりますが、詳細については必ず元の論文をご確認ください。なお、実際の医療現場での適応に関しては、医療専門職の判断に基づいてご対応ください。

2025.08.29

障害者関連事業者向け感染症対策研修を開催しました

障害者関連事業者向け感染症対策研修をオンラインで開催しました。二部構成で行い、第一部では山梨大学医学部感染症学講座 井上修 特任教授より、県内の最新の感染状況などをお話しました。第二部では山梨大学医学部附属病院感染制御部 矢崎正浩 看護師長より、標準予防策や日常的な感染対策をはじめとして、感染症発生時の対応についてお話しました。200名を超える皆様にご参加頂きまして、各施設で取り組みを継続してくださっていることや、感染対策への関心の高さが伺えました。今後も定期的な研修の中で、感染対策の重要性をお伝えしていきたいと思います。

事前質問への回答はコチラ

2025.08.21

抄読会レポート:小児急性虫垂炎に対する抗菌薬治療の非劣性試験を読む

感染症学講座では、専門人材の育成と学生教育を目的として、感染症分野の注目論文を取り上げる抄読会を定期的に開催しています。今回の抄読会では、以下の論文を取り上げました。

 

 Appendicectomy versus antibiotics for acute uncomplicated appendicitis in children: an open-label, international, multicentre, randomised, non-inferiority trial

Lancet. 2025;405(10474):233-240.

 

近年、急性単純性虫垂炎に対する抗菌薬治療が注目を集めています。従来は「虫垂炎といえば手術」というイメージがありましたが、特に成人においては、抗菌薬による非手術的管理の有用性に関する研究が多く報告されています。

 今回取り上げたこの論文では、小児の虫垂炎患者を対象として、抗菌薬治療と虫垂切除術を比較する非劣性試験の結果を報告しています。その結果、抗菌薬治療群は1年以内に虫垂切除術を必要とする割合が34%と高く、虫垂切除術群おける治療失敗率(1年以内に全身麻酔を必要とする合併症が生じるか、切除された虫垂に虫垂炎所見がなかった割合)の7%と比較して、事前に設定された非劣性の基準を満たしませんでした(非劣性は統計学的に証明されませんでした)。

今後も小児の虫垂炎治療の主体は手術ということになりそうですが、一方で抗菌薬群のほうが日常生活に戻るまでの日数が短いことなども示されています。患児(とその保護者)がどのような要素を重視するかに応じて、症例ごとに治療方針を検討する際の重要な判断材料となると思います。今後の研究によって、再発リスクや治療反応性に関する予測因子が明らかになり、より適切な治療選択ができるようになるといいですね。

 

 本記事は、感染症学講座における抄読会の活動報告を目的として作成されたものであり、特定の疾患に対する診断・治療を推奨または否定するものではありません。内容の正確性には十分配慮しておりますが、詳細については必ず元の論文をご確認ください。なお、実際の医療現場での適応に関しては、医療専門職の判断に基づいてご対応ください。

2025.08.19

抄読会レポート:腟用プロバイオティクスによる尿路感染症の再発予防に関する最新研究

感染症学講座では、専門人材の育成と学生教育を目的として、感染症分野の注目論文を取り上げる抄読会を定期的に開催しています。今回はその一環として、以下の論文を取り上げました。

 

 Effectiveness of Prophylactic Oral and/or Vaginal Probiotic Supplementation in the Prevention of Recurrent Urinary Tract Infections: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial

 Clin Infect Dis. 2024;78(5):1154-1161

 

 繰り返し尿路感染症を発症する患者さんは少なからず存在します。その対策として長期的に抗菌薬が投与されることがありますが、これは薬剤耐性菌の出現リスクを高める可能性があります。その中で近年では抗菌薬に依存しない再発予防戦略が注目されています。

 今回取り上げたこの論文では、経口または腟用プロバイオティクスが尿路感染症の再発予防に有効かどうかが検討されました。結果として、腟用のプロバイオティクスが尿路感染症の再発予防に有望であることが示されました。

 現時点では日本では(そして諸外国でも)腟用のプロバイオティクスは流通しておらず、あくまで研究用の位置づけのようです。しかし今回の研究は、抗菌薬以外の方法で尿路感染症の再発を抑制する可能性を示したという点で非常に重要です。今後さらに研究が進めば、腟用のプロバイオティクスの処方が選択肢の一つとなる日が来るかもしれません。

 

  本記事は、感染症学講座における抄読会の活動報告を目的として作成されたものであり、特定の疾患に対する診断・治療を推奨または否定するものではありません。内容の正確性には十分配慮しておりますが、詳細については必ず元の論文をご確認ください。なお、実際の医療現場での適応に関しては、医療専門職の判断に基づいてご対応ください。

2025.03.16

市民公開講座『感染症に負けない。』を開催しました。

一般社団法人 山梨県臨床検査技師会が主催する第39回山梨県医学検査学会内プログラムとして、市民公開講座『感染症に負けない。』を山梨県地場産業センター かいてらす 大ホールにて開催致しました。山梨大学医学部感染症学講座 特任教授 井上修先生が、様々な感染症の現状について、ワクチンの有無も含めて対策をお話しました。あいにくの天候にもかかわらず、学会に参加された臨床検査技師の皆様をはじめ、一般参加の皆様にも多くご来場いただき、大勢の方にご聴講頂きました。

 

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